第88回二科展

   喜びも悲しみも・・・ 〜愛し愛されたマドンナたち

  

乾杯   織田廣喜

 織田廣喜先生といえば、女性であり、フランスはパリである。女性、というよりパリジャンでありマドモアゼルといったほうが相応しい。とにかく何十年、何百何千点を描いてきたであろうか。それでいて見るたびに新鮮で瑞々しい。それはもちろん画家の心がそのたびに瑞々しいからであろう。  

 織田先生の描くパリは、格別にどこということはない。何となくセーヌ河畔や公園やレストランらしい様子をうかがえることがあるが、何処という確定は無用なのだ。登場するマドモアゼルも誰それということはない。いずれも織田先生のマドンナであり、パリという花の都で明るく楽しく日々を送る人々、そんな雰囲気が描かれている。

 いつ頃からだろうか、二科展に500号あるいは300号という超大作を鶴岡義雄先生と毎年競い合って、それが今日まで続いて、すっかり二科展の名物に定着している。今作も300号である。大正3年生まれであるから88か89才になる。このエネルギーはどこから来るのだろう。思うに、描くことが楽しいのだ。楽しくて嬉しくて仕方ないのだ。生きがいというほど気負ったことではなく、描くことが日常であり、喜びなのだとしか、絵を見るとそうとしか思えない。生みの苦しみや悩みなど、作家なのだからないわけはないが、それを少しも見せることなく、それさえも描くバネとし喜びとしてしまうだろう。一面 にそんな書生っぽい一途さもまた織田先生の魅力だろう。

 「乾杯」にはたくさんのマドンナたちが登場する。88歳の米寿のバースディーのお祝いがパリの大勢のマドモアゼルに囲まれてあったのか、いや祖師谷のアトリエでも妄想でもかまわない。いずれであろうとなかろうと、画家の中にこうしたイメージが確かに結ばれていたということだ。

 ワインボトルやグラスがマドモアゼルの間を飛び交い赤い提灯の様な飾りも華やかに、画面 いっぱいに祝祭気分があふれている。片目の女、黒々した女、登場する女たちは織田先生が愛した女たちであり、織田先生を愛した女たちだ。中央の黄色いマドモアゼルが先生のマドンナであろう。

 この「乾杯」は、苦学生からスタートした長い画家人生。喜びも悲しみもすべてを描き込んだ人生賛歌の一幕であろう。(中野)

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