第87回国展より


文化功労者
日本芸術院会員


島田 章三

 

 島田章三さんが『母と子のスペース』で第11回安井賞を受賞したのは、昭和42年、34歳であった。子を抱く母親と馬の親仔が、納屋を思わせる奥行きのある室内で、明るい朱と緑の色面によって画面を構成する。その構成のおもしろさと、タイトルとなった情愛こもる親密的な「空間」のひろがりが、当時、新鮮な具象表現として評価されたのだ。
 さらにこのころ、新設の愛知県立芸術大学に絵画科の講師として招聘され、在外研修員としてヨーロッパ留学する。この留学がそれからの島田絵画を大きく決定づけることになる。
 それは、この留学中にキュビスムと出会い、ヨーロッパの「キュビスムを日本人の言葉(造形)で翻訳」することを自らの課題と見出したのだ。以降、構成やフォルムへのこだわり、そして何げない日常生活に取材した情景から生まれる抒情性を自覚的に追い求めるようになった。その答えが、幾何学的に構成された日常的な情景に組み込まれた独自の人間像「かたちびと」になっていく。
 横須賀に生まれた島田さんは12歳で敗戦を経験、戦後の混乱期に青年期を過ごし、やがて画家を志すようになり、進学した東京芸大在学中に国展に初出品した『ノイローゼ』で、原風景となる横須賀の荒地のなかに時代の不安感を抱えた人物像を描き、国画賞を受賞した。
 一昨年(2011)、横須賀美術館での大回顧展にこの作品も出品されていた。衝撃的な作品であり、「島田さんもこうした絵からスタートしたんだ」との感慨を深くしたが、『ノイローゼ』や『母と子のスペース』をはじめ、作品は社会という「時代」と個人の「時代」が呼応して傑作が生まれることを、あらためて知る回顧展であった。
 紙幅が少なくなった。掲出の『階段のコンポジション』は今春の第87回国展の出品作である。正面と横向きの二人の女性像をとりまくスペースを、三角形と矩形で平面的に構成し、色彩も落ち着いたストイックにして緊密な、島田さん80歳の、長い道程を閲した成果である。(中野)

 

 

階段のコンポジション
130.3×162�B