第81回国展より
日本芸術院会員 島田 章三

 島田先生は、かつて「僕の場合、テーマは自分の生きている生活の範囲の中でポコッと出てくるもの――その小さなメモがふくらんで一つの大作になっていくみたいな過程が楽しい」。あるいは「今、僕のやっている仕事を一口でいえば、キューブの解釈が様式そのものでなく、組織的に頭の中で考えられた立体派でなく、自分の体験からくる絵への洞察を形にして、その成り立ち方を自分の中で探しつづけながら、バランスのとれた絵が描ければそれでよい」「…形に立ち向かってゆく体質が僕の中に根強く存在している」などと語っている。これらはいささか旧聞だが、もちろんその後洗練が進んでいるにせよ、画家の基本的姿勢や体質はこの当時の延長線上にあることは間違いなかろう。
 それらの作品は、自分の生活環境や体験から集めたモティフで構成するのだが、画面が饒舌になったり、弛緩し膨らむことを厳しく嫌い、形を簡潔・単純に削り込んで絵画空間の骨格を可能な限りスリムに仕上げようとする。それは色彩にもそうで、きわめてストイックである。
 かといって余所行きのとり澄ました、冷たいものではなく、アンチームな匂いをもっている。が、かといって安易に取り組むと、骨太く気難しい難解な面も持ち合わせている。
 この作品でもそうだが、登場する人物は無表情で、正面向きといった適度な抽象性を持たせているのは、作品の内容を極度に限定するのを避け、同時に日常の多様なものがとり込めるための演出でもあろう。そして同時に、人物は時間と空間の軸性ともなっている。
 題が片仮名になっているのは横須賀と限定せずにイメージの広がりを意図しているからであり、自身の郷里としての回想のみに終わらせたくないからであろう。
 去る4月末、三浦半島突端の観音崎公園に横須賀美術館がオープンし、その館長に就任した。花束はそのオマージュか。        (中野)

 

    「ミナトヨコスカ」 162×193cm