第69回新制作展より

田幸 稲

「いのち ― 満つ刻 ―」

  青、黄、紫色に、大胆で生彩ある白と黒がインパクトを持ちながら、おだやかにしかし確かな動勢を伴って内から湧き出る豊かさを横溢させているのは、いつもながらのこの画家の魅力だ。みずから染め上げた和紙を自在に求めるフォルムにコラージュするという独自の手法をすでに確立している。創作者はみずからの色や形などのスタイルを求めて精進・工夫をするのだが、みずからのスタイルを手にした時からマンネリがはじめるというジレンマに陥りがちだ。それを破り更なる豊かさを生み出すにはスタイルという規制をバネにするほどの作家自身の内なる充実の横溢が求められる。そうした壁を常に打破して『いのち』シリーズは新鮮さを生み出し続けている。大変なエネルギー(生命力)だ。
 この作品はほぼ中央に赤い丸を置いてポイントをつくり、そこにすべてを収劔しながら放出を繰り返している。この赤丸こそが満つる命のコア(核)なのだと言わんばかりに。この赤の鮮烈さは他の色調のしっとり感(深さ感)にも依っていよう。黒色の大ぶりな動きと細部のこまやかな配慮が組み合わさって赤の核、命そのものの感動。   (中)