〜音楽を絵画する境地〜
第100回記念光風会展より
光風会会長
日本藝術院会員
庄司 栄吉
「音楽家」シリーズの画家として夙に知られている。記念展の今作もチェロを演奏する男性チェリストの肖像画である。
1917(大正6)年大阪に生まれ、東京美術学校(現、東京芸大)洋画科に学び、同郷出身の寺内萬治郎に師事。卒業後、フランスに留学している。67(昭和42)年、日展に「音楽家」を出品。菊華賞を得るが、これ以降、音楽家をモティーフにした作品を多く制作し、それが今日まで半世紀近く続く息の長いシリーズとなった。なぜ、これほどにかくも長きシリーズになったのか。おそらく画家自身に音楽への嗜好があったことは想像に難くない。そして併行して、否それ以上に、一心不乱に演奏する姿、演奏家の瞬時の動き、その動きから奏でられる音色、メロディ、テンポ、加えて楽器の美しいフォルムと演奏家の相関あるいは一体感。そうした諸々の総和に惹かれたのであろう。
掲出の「演奏」にみる筆致の勢いと強弱、リズム感は、アップテンポの曲を演奏しているのかも知れない。演奏家はモデルとして静止したポーズをとっているわけではない、実際に弾いているのだ。その一瞬をとらえる。そして奏でられるメロディと一緒にムーヴマンを描き出す。
リズミカルな筆致のなかで演奏家は輪郭線を失い、音の鳴り響く空間に溶け込み一体化する。そうでありながらその存在は確としている。演奏家はしっかりチェロを支えている。激しい動きが手の形を定かにしない。がしっかり弦を弾いている。チェロと弦の交叉する十字形が画面の骨格となり、そのクロス点が焦点となる。その焦点から、フォルムを包含しながら一体化した色彩がムーヴマンを起こしながら、画面いっぱいに響き広がっていく。
”描いていると色々な問題につきあたります。一枚の絵ができて次の作品の時にはまた新しい課題が出てきます。ですから描いて描いて描き続けなければ、新しい考えは出て来ません”
どこまでも前向きで貧欲である。
100号以上の大作の中にあって、やや小ぶりの50号は確かな存在感を示していた。それだけ作品が豊かであり、奥行きがあり、味わい深いということだ。(中野 中)
